道の駅北川はゆま

Cinemarama English #1『七人の侍』

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英語の読解力を伸ばすには多読も一つの道です。しかし、読む文章や本を選ぶのが中々曲者です。よく言われるのは簡単過ぎず、難し過ぎないものを選ぶ。これまたあやふやな答えですが、つまりはわからない単語が一ページ当たりに数十個もあるような、文章そのものよりも辞書と睨めっこしている時間の方が二倍ぐらい多いんじゃねぇのとなったらもう”読書の楽しみ“などは机の上にも頭の中からも消え失せていることでしょう。

同時にどうせ読むなら必ず自分が興味を持っているもの、母国語でも手を伸ばしているような題材やジャンルの本や文章を選ぶのも大事です。

よく映画の台詞を使っての英会話などは見掛けますが、読解力を上げるために映画のあらすじと作品紹介を用いての英語学習に役立ちそうな記事はなかったのでならば私がやったろうかと筆をとった次第。

こちらでは最初の内は私が兼ねてから良い英語の文章の宝庫だと思っていたクライテリオン社の映画の説明文を紹介します。

この会社の文章を選んだ理由は三つ。一つは長くない。なぜならDVDやBlu-rayのパッケージの裏に書かれているものなので半ページぐらいの長さです。二つ目は、使っている単語や表現が洗練されています。中々お目にかかれない単語もあれば、よく見る単語が意外な意味を持っていることに気づかせてくれます。

三つ目、なによりこのように英語では偉業や名作たちを褒め称えるのかと読んでいていい気分になる文章ばかりだからです。

映画が好きで、英語を勉強したい方ならこれらの記事はより有益になるのではと思います。

初回取り上げるのは日本映画史上最高傑作の一つで、クライテリオン社では2番目に発売された映画『七人の侍』です。

■『七人の侍』1954年 “Seven Samurai”

作品紹介

One of the most thrilling movie epics of all time, Seven Samurai (Shichinin no samurai) tells the story of a sixteenth-century village whose desperate inhabitants hire the eponymous warriors to protect them from invading bandits. This three-hour ride from Akira Kurosawa—featuring legendary actors Toshiro Mifune and Takashi Shimura—seamlessly weaves philosophy and entertainment, delicate human emotions and relentless action, into a rich, evocative, and unforgettable tale of courage and hope.

単語

epic: verb, a book, poem, or film that tells a long story about brave actions and exciting events

「大作映画」

これはよく映画のレビューなどで用いられる名詞です。昔は「壮大な詩」という意味でしたが、超大作映画にも当てはめられるようになりました。また形容詞としても使えます。もちろん誉め言葉として「非常に壮大、圧倒される」という意味を込められます。

desperate: adjective, a desperate situation is very bad or serious

「絶望的な」

“hopeless”にも似た意味ですがこちらには希望はまだあるというニュアンスがあります。それが映画内では侍たちを雇うことが小作人たちの絶望な状況下の“希望”であり、この作品紹介の最後の単語が“hope”で終わっていることにも繋がっていますね。

eponymous: adjective, the eponymous character in a book, film, or play is the character whose name is in its title

「タイトルになっている人物の」
なんだこのこなれない日本語訳はと思うかもしれませんが、中々直に日本語に訳しにくい単語ですね。しかし意味は明快。例えば「ハムレット」のハムレット、「白雪姫」の白雪姫、「バットマン」のバットマン、「ジョン・ウィック」のジョン・ウィック。これは全員“eponymous characterです。

ride: noun, a journey in a vehicle, when you are not driving

「旅」

これが今回一番曲者な単語ですね。普通は動詞で「乗る」という意味で親しんでいますが、今回は名詞。それでも「乗る事」という意味はあるのですが文脈上しっくりこない。ただ辞書には「自分では運転しない車での旅」との意味もあるので、今回は「旅」という日本語訳にします。この自分では運転しないというのが映画を通じて経験へと繋げているところが面白いなぁと。ただ座っているだけで旅できちゃうんですからね。ちなみにfromの使い方も一瞬えっ?となりますが“Don’t take a ride from a stranger”「知らない人の車に乗っちゃ駄目よ」になるので合っています。

evocative: adjective, making people remember something by producing a feeling or memory in them

「呼び起こしてくれる、思い出させてくれる」

良いもの、心地よい何かを思い出せてくれる物事についての誉め言葉の形容詞。ここでは“勇気と希望”を観客の心に呼び起こしてくれるだろうという意味。似た形容詞に“reminiscent”という単語もありますが、こっちはノスタルジアを伴った心地良さを届けるニュアンスもあるので心を元気づける感じでは“evocative”の方がいいのでしょうね。

※参考辞書 Longman Dictionary of Contemporary English

では日本語訳です。

史上最もスリリングな大作映画の一つ『七人の侍』は、16世紀のとある村で襲い来る山賊に絶望的な状態に置かれている農民たちが村を守ってもらうようにタイトルにある七人の侍達を雇う物語です。伝説的な役者、三船敏郎と志村隆主演で、流れるようななだらかさで哲学と娯楽、人間の機微と絶え間ないアクションを繋ぎ合わせた黒澤明による豊かで、勇気と希望を思い出させてくれる忘れられない物語へと誘う三時間に渡る映画の旅です。

■一口感想

少し前『七人の侍』を観直した時の感想は、「やっぱちょっと面白すぎんな、これは」とエンタメで絶頂を感じることができる作品だとつくづく感じましたが、新発見としては菊千代が超可愛い!あの感じはもはや人間じゃなく、ペットのワンコのような愛嬌を元気よく暴れながら、表情豊かに演じている様子に釘付けになりました。平山夢明さんの小説『ダイナー』では菊千代という非常に攻撃力の高いお利口なワンコが登場しますが、ナイスネーミングだと感心しました。

これからも時折、クライテリオン社の作品解説を翻訳し、紹介していきますね。

The Criterion Collection リンク先

https://www.criterion.com/films/165-seven-samurai