道の駅北川はゆま

Cinemarama Englsih #4 『独裁者』

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第四回はチャールズ・チャップリンが監督・脚本・主演した『独裁者』です。クライテリオン社の紹介文は短くも言葉選びが力強く、そして書き手の主観がいい塩梅に込められている感じが大好きです。この商品をどうやって売るかをゴテゴテした文句で着飾らせるのではなく、この映画の魅力を言葉でどうにか伝えられないかという魂が籠っている文章です。正に今回の『独裁者』の文はそれを象徴するかのような良い文章です。

■原文

In his controversial masterpiece The Great Dictator, Charlie Chaplin offers both a cutting caricature of Adolf Hitler and a sly tweaking of his own comic persona. Chaplin, in his first pure talkie, brings his sublime physicality to two roles: the cruel yet clownish “Tomainian” dictator and the kindly Jewish barber who is mistaken for him. Featuring Jack Oakie and Paulette Goddard in stellar supporting turns, The Great Dictator, boldly going after the fascist leader before the U.S.’s official entry into World War II, is an audacious amalgam of politics and slapstick that culminates in Chaplin’s famously impassioned speech.

cutting: adj. unkind and intended to upset someone

「辛辣な、皮肉な」

“a cutting remark”「辛辣な言葉」と相手の感情を”切る”ように傷つける意味です。

caricature: noun. a funny drawing of someone that makes them look silly

「風刺」

sly: adj. someone who is sly cleverly deceives people in order to get what they want

「ずるい、巧みな」

辞書には何かを得るために人を騙そうとするという意味ですが、今回はそこから少し外れた意味、つまり“うまく”と捉えるのが文脈上よさそうです。

tweak: adj. to make small changes to a machine, vehicle, or system in order to improve the way it works

「微調整する」

この”a sly tweak”が今回一番頭を悩ませました。少しエキセントリックな使い方、単語を使っていますね。要はこれまでのチャップリンが映画内で演じてきた浮浪者チャーリーのイメージを巧みに、この映画の目指す方向やメッセージに上手くはまるように微調節をしているという意味で宜しいかと思います。そもそも今作の主人公は店を構えていますからこれまでの浮浪者像とは違うので。余談ではヒトラーも実際に浮浪者の生活を経験しています。

sublime: adj. something that is sublime is so good or beautiful that it affects you deeply

「荘厳な、雄大な、素晴らしい、卓越した」

とても優雅な単語です。“excellent”でも良い所を少し上品に決めたい場合はこの形容詞。王室や貴族の席でも使えるし、日常でもここぞと云う時に放てます。

clownish: adj. silly or stupid

「こっけいな」

言葉通り、“clown”「ピエロ」から連想されるイメージを組み込んだ形容詞です。チャップリンがヒトラーをモデルとした架空のトメニアの独裁者を演じるのでピッタリな言葉です。

kindly; adj. kind and caring for other people

「親切な」

stellar: adj. extremely good(American English)

「一流の」

元々は“connected with the stars”「星に関係した」ですが、転じてこの意味になりました。”a stellar parformance”は「一流のパフォーマンス」として演技者を褒める素敵な表現になります。

turn: nons. a stage act or performance (British English)

「幕、演技」

他言語を読む時に、こういう知っている基本的な単語が思いもよらない箇所に置かれていると面喰いますが正に今回はその例です。幾つかの辞書には載っていないですが、Cambridge dictionaryの英英辞書には上記の意味で載っていました。文章から大体演技に関する名詞だろうなと推測できますが、“turn”のような簡単な単語だからこそウッと指を止めてしまいます。

go after sb: phv. to take actions to punish someone who has done something wrong or illegal

「罪を犯した人を罰する」

“to try to get something”「何かを得ようと試みる」の意味もありますが目的語に人が来ている事と、文脈から今回は上記の意味です。

audacious: adj. showing great courage or confidence in a way that is impressive or slightly shocking

「勇敢な、大胆不敵な」

すぐ後に“boldly”という”bold”の副詞がありますが、こちらも似た意味です。ただ“audacious”の方が、リスクを冒していることを踏まえて行動しているニュアンスがあります。

amalgam: noun. a mixture of different things

「合体、混合物」

culminate in/with sth: phv. If an event or series of events culminates in something, it ends with it, having developed until it reaches this point

「最高潮に達する」

この単語を紹介文の最後のセンテンスに用いている事にグッときます。なぜならこの映画の最後のスピーチの盛り上がりをこの文章でも習うようにしているからです。つまり、この映画の最も有名な最後の演説の言及を紹介文のラストに置く感じです。中々見ない句動詞ですがどこか“climax”と似た文字並びと音なので意外に覚えやすいです。

impassioned: adj. full of strong feeling and emotion

「感動的な」

“passionate”だと「熱烈な、激しい」と主語だけに焦点がある感じですが、こちらの形容詞だと他者に対して刺激を促すほどの強い感情であるとして、より力強いです。綺麗ごとや、一見いい言葉にみえる単語をただ並べただけの文章を感情こめて行う演説とは比べ物にならない感動的なスピーチだということです。

■日本語訳

物議をかもすチャールズ・チャップリンの傑作『独裁者』では、彼はアドルフ・ヒトラーの辛辣な風刺と、これまで彼が演じ続けたコミカルな人物像にうまく捻りを加えた上で演じる。チャップリンのキャリア史上初めて全編トーキーの作品で、彼の真に素晴らしい身体的強みを二つの役に宿す。一人は残忍、だけど滑稽なトメニアの独裁者。そしてもう一人は親切なユダヤ人の床屋で後に独裁者と間違われる人物だ。ジャック・オーキーとポーレット・ゴダードの二人による抜群の助演を据えつつ、アメリカが正式に第二次世界大戦に突入するよりも前にファシストの指導者を勇敢にも弾劾している『独裁者』は、政治とスラップスティックを大胆不敵に融合し、有名なチャップリンの感動的な演説で最高潮に達する。

■最後のスピーチより

最後の四分間にも渡って行われるスピーチより一部だけ。今なお、今こそ響くメッセージです。

“Our knowledge has made us cynical; our cleverness, hard and unkind. We think too much and feel too little. More than machinery, we need humanity. More than cleverness, we need kindness and gentleness. Without these qualities, life will be violent and all will be lost.”

Our knowledge has made us cynical; our cleverness, hard and unkind.

ここで繰り返しを防ぐために、; の後を思い切ってバッサリ省略しています。

「知識が我々を冷笑的な人間にし、利口さが我々を他者に対して厳しく、不親切にさせる」

We think too much and feel too little.

似たことを後にブルース・リーが言いますね。

More than machinery, we need humanity. More than cleverness, we need kindness and gentleness.

普通は“We need humanity more than machinery”ですが、強調する為に語順を変え、より力強くなっています。

Without these qualities, life will be violent and all will be lost.

“these qualities”は”humanity, kindness, and gentleness”です。

日本語訳は

「知識が我々を冷笑者にし、利口になる事が我々を他者に対して厳しく不親切な人間にさせる。我々はあまりにも考え過ぎて、ほんの少ししか感じようとしない。機械以上に人間らしさが必要で、利口者でいるよりも親切や優しさが必要だ。これらがなければ、人生は酷いものになり、一切合切失われるだろう」

■終わりに

有名な最後のスピーチ以外にも見所がたくさんある豊かで、辛辣で、そして感動を巻き起こす傑作です。他の見所も紹介したかったのですが、どうしても今一度この最後のスピーチを聞き、感じ直して欲しいと思ったので今回はスピーチのみ重点を置きました。内容自体の素晴らしさはまた別の機会に譲ります。

スピーチ内の他の箇所では

I should like to help everyone if possible; Jew, Gentile, black man, white. We all want to help one another. Human beings are like that. We want to live by each other’s happiness, not by each other’s misery.

とユダヤ人も非ユダヤ人も、黒人も白人もお互いに助け合うべきだと述べています。差別の対象がどの人種にも向けられるべきではないと。

しかし今現在幾つかの国の指導者や政策では人種的、経済的格差を助長したり、差別を扇動するような言動や動きに本当にとさかにきます。

今行われている運動や動きに対して黒人に対しては大きな動きを起こすけど、アジア人が差別された時は見知らぬ振りを決め込んだのに都合がいい事ですね、と冷笑する人がいます。

このような事実があるということは否定しません。だからといって、不当な差別を受けて悲しい目や嫌な思いを抱える人々を助けようとする現在進行形の気持ちに水をぶっかけるような真似はしたくないです。知れば知る程動けなくなるどころか、人に対しても抑制させようとします。

暴力や暴動によって社会を変革させようとしている輩、終いにはこれに乗じて略奪を行う愚かな人々もいますが、それがこの動きの全てではないし、自分が正しいと思う行いをしている人々側に立つという事を主張することは正義以前に“権利”です。まだまだ遥か遠い理想に向けて動き、団結し、声を挙げている、武力の代わりに万人に与えられるべきこの行動する権利を行使する人々を私は支持します。

国際情勢や政治について隅の隅にまで把握しておらず、考えが足りない点はきっとあるでしょう。所詮一人の人間が把握できることなんかたかが知れていますわな。ニュースも国内外の幾つかのソースから収集するようにしても、多かれ少なかれバイアスがかかっている情報で結局知れば知れば知る程混乱の沼に沈み身動きができなくなる気がします。

けれどなお、性別、人種、国籍、宗教、職業等、ありとあらゆる差別にはムカつくし、それを促すような言葉を放ったり、政策をとったり、苦しんでいる人々を助けたり共に行動しようとする人々を冷笑したりする人々の側に、私は立ちたくありません。これまで観てきた映画やドラマ、読んできた本、学んだ哲学、そして出会った人々がそれは正しい事じゃないと諭してくれるからです。